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現地調査とビッグデータでパケ止まり解消へ!つながる体感の向上を実現した舞台裏

「パケ止まり」とは、データ(パケット)通信ができなくなる状態のことで、3Gから4G、そして5Gへと、通信規格の移行期に発生しやすくなります。KDDIは、お客さま体感品質にこだわり、品質データの検知・分析・対策を積み重ねてきました。

その結果、2024年10月にグローバル分析会社Opensignal社が発表した、日本市場の「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」において、「一貫した品質」「信頼性エクスペリエンス」*1 など全18部門中13部門で1位を獲得し、国内の移動体通信事業者MNOでは最多受賞を獲得しました。

*1:
一貫した品質:一般的なモバイル・アプリケーションを遅延や速度低下なしにサポートする能力を測定する指標
信頼性エクスペリエンス:通信サービス・プロバイダのネットワークに接続し、タスクを完了する能力を評価する指標
Opensignal アワード - 日本: モバイル・ネットワーク体感レポート(2024年10月)
2024年7月1日~2024年9月28日の期間に記録されたモバイル測定値の独自分析に基づく。
詳細はOpensignal社HPをご覧ください。© 2024 Opensignal Limited.

● 「パケ止まり」とは?なぜ発生するのか?

「パケ止まり」とは、情報伝送に必要なデータパケットが何らかの原因で流れなくなり、データ通信ができなくなる状態のことです。例えば、YouTubeの動画が止まる、Instagramのストーリーが読み込めないなど、通信がつながりづらくなる状態のことをいいます。

このパケ止まりにはさまざまな原因が考えられます。電波が弱いことによる無線品質劣化、同じ基地局で多くの人が通信し過ぎることによるトラヒック(通信量)の輻輳(ふくそう)、インターネットにつなぐ回線の容量不足による輻輳などです。

パケ止まりという言葉は、5Gのスマートフォンやタブレットが普及しはじめた2021年夏あたりから、通信状態を示すアイコン(アンテナピクト)に5Gの表示が出ているのに、高速どころか通信ができなくなる現象が多く発生したことで、話題になりました。

2021年10月頃には、auにおいても東京都 池袋駅周辺、山手線などでパケ止まりが発生したという声が社内から上がり、本格的に全国での改善活動を開始しました。その後、新幹線でもパケ止まりの社内申告が相次ぎ、全国各地における現地調査、データ分析を重ね、その場所に適したさまざまな改善に向けた施策に取り組んできました。さらに、同様の取り組みを主要路線や商業地など各スポットで展開。この地道な改善活動を続けたことで、2024年1月にはauがパケ止まり率の低さで国内キャリアNo.1になり、現在もその品質を維持しています。(自社ビッグデータ調べ。2024年1月に、1ヶ月間全時間帯における取得ログを対象とし、パケ止まり基準に該当したログの割合を算出)

主要路線付近で現地調査を実施主要路線付近で現地調査を実施

● データと、体感の違いを現地調査で確認

このパケ止まりの改善に取り組んできた、KDDI エリア企画室の阿部 大輔は、これまでの経緯について振り返ります。

「私たちは普段からお客さまの体感品質が悪くなっていないか常にデータをチェックしており、2021年に他社のパケ止まりの記事が出たとき、auのパケ止まりについても気にかけるようになっていました」(阿部)

KDDI コア技術統括本部 エリア企画室 阿部 大輔KDDI コア技術統括本部 エリア企画室 阿部 大輔

しかし2021年下期に、エリア品質の改善対策をしている担当者から「池袋でパケ止まりが起きている」という申告がありました。現地で確認してみると確かにつながりづらく、5Gのスマートフォンやタブレットにおける、お客さまの体感品質の指標としていたデータと実際の体感に乖離があることが分かりました。現地調査やデータ分析を重ねた結果、このパケ止まりの原因は、「5G基地局の電波が弱くなった際に4G通信を活用する」という機能が上手く動作しないことだと特定することができました。

「全ての基地局の条件が同じではないので、人の目で確認しながら数万局ある基地局の設定を変更しています」と阿部が話すように、現場での地道な作業が改善の鍵となっています。

現地調査で、データと実際の体感を比較現地調査で、データと実際の体感を比較

現地調査には、調査用のスマートフォンを複数台使用現地調査には、調査用のスマートフォンを複数台使用

その後、山手線でもパケ止まりの申告がありました。KDDI エリア企画室に所属する島屋 早希は、そのときに現地調査の大切さを痛感したと話します。

「スマートフォンやタブレットを10台持って山手線に乗り込んで何周も測定を実施し、お客さまの体感品質の確認と、分析のためのデータ取得を繰り返しました。品質把握のためには、実際に測定することが重要ということを改めて感じ、そこから主要路線についての現地調査と対策の検討が始まりました」(島屋)

KDDI コア技術統括本部 エリア企画室 島屋 早希KDDI コア技術統括本部 エリア企画室 島屋 早希

● 品質の改善は「一夜にしてならず」

パケ止まり解消に動き出した阿部は、まず社員に協力を要請して、パケ止まりが発生しているエリアを全国各地のKDDI社員から社員専用のアプリで申告してもらい、その内容を一つずつ確認していきました。2022年度以降は、正確な情報をより効果的に収集するため、品質改善に利用することを目的とした「エリア品質情報送信機能」により、お客さまから送信いただいたスマートフォンやタブレットの品質情報をビッグデータとして活用し、パケ止まり発生エリアを特定しています。

データドリブンと自動化による品質向上のプロセスデータドリブンと自動化による品質向上のプロセス

2022年以降に開始した新幹線での測定と改善活動では、特に利用者の多い東海道新幹線区間で、週に2回のペースで測定を行うこともありました。測定したログを分析することで、「どこでパケ止まりが起きているのか?」「何が原因なのか?」が判明し、品質改善のヒントが見つかりました。

新幹線でのパケ止まりは、高速移動のため基地局の切り替えがうまくできていないことや、トンネル内ではそもそも電波が弱いことが原因で発生します。そのため、基地局側で接続に失敗してもすぐに再接続できるような設定を施しました。

こうした一筋縄ではいかないパケ止まりの対策の難しさについて、KDDI モバイルアクセス技術部の渡部 泰成は次のように説明します。

「通信事業者は、国から周波数利用の免許を割り当てられ、その範囲の中で運用しています。利用できる周波数資源は4G LTE、5Gでそれぞれ限られているため、偏らないように配分することが求められています。しかし、5G端末の普及状況やお客さまの利用傾向により、運用のトレンドは日々変化するため、その変化に適した対応が不可欠です。例えば、既存設定のチューニングや新機能の導入を行うことがあります。ただし、新機能の導入には、リスクが伴うため、検証やトライアルを十分に行った上で、全国に展開しています」(渡部)

KDDI コア技術統括本部 ノード技術本部 モバイルアクセス技術部 渡部 泰成KDDI コア技術統括本部 ノード技術本部 モバイルアクセス技術部 渡部 泰成

● パケ止まりの解消を一気に進めた対応策の発見

さまざまな方法で改善をしてきたものの、なかなか即効性のある対策が見いだせなかった2022年の終わり頃、現地調査や分析を積み重ねる中で、4G LTEの周波数のトラヒックのバランスに偏りがあることに気が付きました。

当時、導入期にあった5Gは、お客さまが5Gにつながりやすくするために、4G LTEの特定の周波数帯(バンド)につなげて通信をしています。KDDIが保有している4G LTEの7周波のうち3周波がその特定のバンドで、5Gにつながるときはそのバンドを利用するよう設定していました。ところが、5Gのスマートフォンやタブレットが普及してきたことと、コロナが収束し、外出先などでのトラヒックが増え始めたことが重なり、この特定のバンドが逼迫(ひっぱく)してしまい、パケ止まりが生じていたのです。

「『特定のバンドを利用した設定』を解除すれば、パケ止まりの解消が一気に進む」ことを突きとめた阿部ですが、懸念もありました。

「この方法は周波数間のトラヒックバランスを大きく変えることになり、さまざまな用途で使われている端末への配慮が必要でした。そこで、時間をかけて関連部門と議論・調整、設定変更などを進めていきました」と振り返り、こう続けます。

「技術トレンドは日々進化しています。そのため、全てのお客さまの体感を良くできるようには日々調整していく必要があります。5Gエリアの拡大、5G対応端末の増加など、今後も逐次状況を見極めながら設定の見直しなどの対応を図っていきます」(阿部)

また、「机上では『良くなるはず』と想定したものの、うまくいかないこともありました。パケ止まりが改善しても、他の要素で不具合が出たこともあります。複合的に機能を導入し、課題にマッチしたチューニングを適用することが大切だと痛感しました」と渡部は話します。

● 地道な改善を積み重ね『パケ止まりゼロ』を目指す

お客さま体感品質の向上を目指し、改善に向けた取り組みを続けてきた担当者たちは、今後の展望について次のように語っています。

「一部のエリアでは、まだパケ止まりが発生していますので、パケ止まりが起きないエリアを増やしていき、最終的にはパケ止まりが全く起こらない『パケ止まりゼロ』を目指します。日々刻々と変化する品質劣化の内容や原因に向き合い、少しでもお客さまの体感が良くなるように改善を続けます」(阿部)

「私たちはチューニングでできる最大限の改善を実施し、それでも品質を改善できない場合は基地局への投資の必要性を訴えていくべきだと考えています。一人でも使いづらいと感じているお客さまを減らすために地道な改善を積み重ねていきます」(島屋)

「パケ止まり率の低さが改善された今、さらなる高みを目指していきたいと思います。開発部門の立場としては、今までなかったような新しいサービスを世の中に打ち出し、お客さまにワクワクを提供し続けたいです」(渡部)

KDDIは、安定・快適な通信環境をお客さまに提供するために、パケ止まりの解消をはじめ、「日常をつなぐ」ための通信の品質改善に取り組み続けます。

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