利用者の安全と快適のために 富山県の秘境・黒部峡谷にKDDIが電波を届けた舞台裏
本記事は、KDDIのデジタル情報マガジン「TIME&SPACE(2022年12月終了)」に掲載された内容となります。
富山県の黒部峡谷(くろべきょうこく)は、猿飛峡や奥鐘山が国の特別名勝および特別天然記念物に指定されているとともに、日本三大渓谷のひとつにも数えられている国内屈指の名勝である。そんな黒部峡谷の観光に欠かせないのが、「トロッコ電車」の愛称で親しまれる「黒部峡谷鉄道」だ。始発駅の宇奈月(うなづき)駅から終点の欅平(けやきだいら)駅まで、全長20.1kmを片道約1時間20分で結ぶ。
黒部峡谷鉄道 宇奈月駅
黒部峡谷鉄道のトロッコ電車
普通客車は窓がないオープン型
オープン型の客車は爽快な風がダイレクトに感じられ、開放感たっぷり(写真提供:黒部峡谷鉄道)
黒部峡谷鉄道の歴史は古く、敷設工事が始まったのは1923年のこと。もともとは黒部川の電源開発のための資材や作業員の運搬のためのものだったが、秘境黒部峡谷の探勝を希望する声が絶えないため、1953年に旅客営業運転をスタート。かつては人を寄せ付けない秘境の地だった黒部峡谷の絶景をひと目見たいと願う観光客から人気を集めてきた。
宇奈月駅からほど近い新山彦橋をわたるトロッコ電車(写真提供:黒部峡谷鉄道)
高さ60mの後曳引き橋(写真提供:黒部峡谷鉄道)
紅葉の時期の美しさもまた格別(写真提供:黒部峡谷鉄道)
● 黒部峡谷鉄道の全線でauが利用可能に
そんな黒部峡谷鉄道において、観光客は駅周辺以外でスマホを使えない状態が続いていた。電波が届きづらい山奥にあるうえ、沿線の大部分が中部山岳国立公園に位置するため、携帯電話の基地局を新たに設置することが難しかったためだ。
そのような状況において、KDDIは近年、景観への配慮などさまざまな工夫をしながら、auの通信エリア対策工事を行い、電波状況の改善を図ってきた。
KDDIによる黒部峡谷鉄道の通信エリア対策工事の様子
そして2022年8月、黒部峡谷鉄道の全線におけるauの通信エリア対策工事を完了。始発駅の宇奈月駅から終点の欅平駅まで、沿線のすべての区間でauのスマホを使えるようになった。
● 黒部の山奥に電波を届ける難しさとは
山深い地にある黒部峡谷に、KDDIはどのようにして電波を届けたのか。そこにはどのような工夫や苦労があったのか。黒部峡谷鉄道におけるauの通信エリア対策を担当したKDDIエンジニアリングの船本一弥と嶋田直樹に話を聞いた。
KDDIエンジニアリング建設事業本部モバイルプロセス本部の船本一弥と嶋田直樹
――黒部峡谷鉄道の全線にauの電波を届けることになった経緯を教えてください。
船本:きっかけは、黒部峡谷鉄道さんからのご要望でした。KDDIとしてもこの地域を訪れる多くの観光客に電波を届けたいという思いがあり、黒部峡谷鉄道の全線におけるauの通信エリア対策を決定しました。
嶋田:ただ、黒部峡谷一帯は携帯電話の電波を届けるのが極めて難しい場所です。このエリアは国立公園にも指定されているため、携帯電話の基地局など新たな建造物の設置には関係省庁の許可が必要になり、申請に時間を要します。また、沿線には道路が通っておらず、自動車でアクセスできないため、携帯電話の基地局の設置に必要な無線機、電源、アンテナといった機材をトロッコ電車で運搬しなければなりません。
――今回の黒部峡谷における通信エリア対策工事。計画から実現までどれくらいの期間を要しましたか?
船本:黒部峡谷鉄道さんから最初に相談を受けたのが2018年末なので、3年以上かかりました。当初は全長20.1kmのうち、基地局の設置が済んでいたのは主要駅の4カ所のみ。事前の調査では線路上を何度も歩いて往復し、電波状況を確認したところ、沿線は圏外の場所がほとんどでした。
嶋田:auの電波をくまなく届けるため、沿線上に基地局を設置する計画を立てました。しかし、予定の基地局数では全線をカバーし切れないことが判明し、計画の見直しを迫られました。最終的には当初予定の約2倍の数の基地局を設置することで、黒部峡谷鉄道の全線にauの電波を安定して届けることができました。
● 「バズーカアンテナ」でトンネル内に電波を発射
――今回の通信エリア対策工事で特に苦労したことは?
船本:トンネルの内部に電波を届けることです。黒部峡谷鉄道には41ものトンネルがあり、距離はいちばん長いもので約1kmあります。
嶋田:黒部峡谷鉄道のトンネルは一般的なトンネルよりも狭いうえに、カーブがきついため、外から発射した電波が中まで届きにくいんです。
船本:どうすればトンネルの内部まで効率的に電波を届けられるのか、頭を悩ませました。検討した結果、指向性が高くパワーの強いアンテナ、通称「バズーカアンテナ」をトンネルの入り口付近に設置し、トンネルの内部に向けて電波を発射しました。
向かって右側に見えるのが今回設置したauの基地局の一部
トンネルの入り口付近に設置した「バズーカアンテナ」
嶋田:場所によっては、バズーカアンテナでも電波が届きづらいところもありました。そういった場合はトンネルの入り口に加え、トンネルの内部にも基地局を設置することで、電波を届けました。
船本:また、この地域は世界有数の豪雪地帯。冬季は深い雪に覆われます。工期が限られるなか、通信エリア対策工事をすこしでも前に進めるために、冬季も現地へ足を運び、電波調査を行いました。
嶋田:冬季はトロッコ電車が運休しているため、自力で行くしかありません。黒部峡谷一帯は想像以上に雪が深く、現地にたどり着くだけでもひと苦労でした。
2022年1月に行った電波調査では、スコップで雪をかきわけながら現地へ向かった
船本:いまは日本全国どこでもスマホが使えて当たり前の時代。ここ黒部峡谷はつながらない時期が長く続きましたが、みんなで力をあわせ、工夫を重ねることで、ようやくつなげることができました。
「つながらなかったところをつながるようにすることにやりがいを感じる」と船本と嶋田は口を揃える
およそ3年がかりで行われた今回の通信エリア対策工事。これによって黒部峡谷鉄道の全線で、すべてのauの利用者がスマホを使えるようになった。黒部峡谷鉄道を訪れる機会があったら、ぜひスマホを活用して、安全かつ快適に観光を楽しんでほしい。そして、その美しい景色をスマホのカメラで収め、家族や仲間とリアルタイムで分かち合ってほしい。
● 黒部峡谷トロッコ電車にauスマホを持って出掛けよう!
富山県黒部市の宇奈月駅から欅平駅までを、黒部川沿いに走る「黒部峡谷トロッコ電車」。今回、沿線のすべての区間でauのスマホを使えるようになった。
トロッコ電車の客車は、開放感を味わえる窓のない「普通客車」と、ゆったり旅に最適の窓付きの「リラックス客車」の2種類。どちらも風光明媚な峡谷を存分に堪能することができる。
後曳橋を走るトロッコ電車(写真提供:黒部峡谷鉄道)
車中から眺める大自然は、まさに絶景。春の新緑や秋の紅葉など四季折々の顔を見せる黒部峡谷は、フォトスポットとしても最適だ。
トロッコ電車から見た景色(写真提供:黒部峡谷鉄道)
10月下旬~11月中旬頃、紅葉の黒部峡谷。例年、10月下旬から11月上旬が紅葉の見ごろ。赤、黄、緑に彩られた紅葉と黒部川のエメラルドグリーンのコントラストが絶景(写真提供:黒部峡谷鉄道)
スマホがつながるようになったことで、トロッコ電車からの美しい景色を撮影し、リアルタイムで家族や友人に共有したり、SNSに投稿したりすることが可能になった。
スマホを片手に、黒部峡谷を訪れトロッコ電車からの景色を楽しんでみてはいかがだろうか。
文:TIME&SPACE編集部
撮影:梅田 航
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