人口100人の島に基地局を 離島に電波を届ける工夫とは

本記事は、KDDIのデジタル情報マガジン「TIME&SPACE(2022年12月終了)」に掲載された内容となります。

愛媛県西部の宇和海に浮かぶ小さな島「嘉島(かしま)」。面積は0.54㎢、人口は100人に満たない離島だ。この嘉島は以前から電波が不安定で、場所によってつながらないこともしばしばあった。

そこで2019年7月に、この島のエリア化、つまり携帯電話がスムーズにつながるようにKDDIの携帯電話基地局を開設する工事が開始された。

離島での工事には、他の場所とは異なる独自の準備が必要だ。不足したものが出た場合でもすぐに取りに戻ることができないため、資材や重機を最初にまとめて運ばなくてはならない。また、小さな島の場合はフェリーが就航していないことも多く、自分たちで船をチャーターする必要もある。

そのために今回用意したのは、船体にクレーンを据え付けた全長20m以上の巨大な台船。島に建てるアンテナの支柱となるコンクリート柱や、地面を掘削するのに使うコンプレッサー車などといった重機や資材を、島外から船で大量に運び込んだ。

さらに、小さな島に基地局を設置する場合、大きな問題がもう一つある。それは、光ケーブルの敷設が難しいということだ。

携帯電話の電波をつなげるためには、基地局と基地局を光ケーブルでつなげる必要があるが、離島の場合はその光ケーブルを「海底」に敷設しなければならないため、莫大な時間と費用がかかってしまう。

その課題を解決すべく、離島のエリア化では、「無線エントランス」という方式を採用した。無線エントランスとは、陸側に「親機」となる基地局を設定し、島にその「子機」を置く方式だ。親と子両方にパラボラアンテナを搭載して、子機はパラボラで島の携帯電話の電波を陸側の親機に送り、信号に変換して光ケーブルで全国に送る。

今回嘉島に建てる基地局は、その子機にあたる。そして、電波を送る親機に設定されたのが、宇和島から陸続きの半島にある基地局だ。

「無線エントランス」を行う場合には、まずは島に電波を送るのにふさわしい「親機」となる基地局を選定するため、付近の基地局を一局ずつまわって現地調査する。調査で重要なのは、親機となる基地局から子機となる基地局の建設予定地をきちんと見通せるかどうかという点だ。

無線エントランスの電波は、遠くまで届く代わりに遮蔽物に弱い。島までの電波の通り道に何かがあると携帯電話はまったくつながらなくなる。たとえば海上を船が通過し一時的に電波を遮断しただけでも、すぐに携帯電話の通信は途切れてしまう。

今回の調査では、海上の電波の通り道の高度などさまざまな条件を鑑みて、宇和島山中が最適であると判断した。担当者たちが宇和海に面した山をくまなく駆け巡りながら、島に電波を送るのに最適な基地局を探し当てたのだ。

つながらない場所をつないだ後には、つながった場所を正しくつなぎ続ける取り組みが生まれる。今日も、海を渡り山を駆け巡り鉄塔によじ登り街を見渡し、携帯電話の電波をつなぎ続けるために、“現場”は動き続けている。

住民・観光客・漁師のためのエリアをつくる思い

愛媛県西部の宇和海に浮かぶ小さな島「嘉島(かしま)」は、以前から電波が不安定で、場所によってつながらないこともしばしばあった。そこでKDDIは、2019年7月、嘉島で携帯電話がスムーズにつながるようにKDDIの携帯電話基地局を開設する工事を開始した。

その嘉島のエリア化に取り組んだKDDIの小田浩明は、今回のエリア化にあたりこう語る。

「島の産業の中心は漁業です。携帯電話がつながることで、島に暮らす皆さんの生活が快適になるのはもちろん、携帯電話は緊急時の通信手段として非常に重要ですので、島内だけでなく、作業中の船で漁師さんがきちんと使えるよう、エリアの構築を行わなくてはなりません。この嘉島のエリア化は、島の皆さんにとってはもちろん、KDDIとしても悲願のエリア化でした」

今回の嘉島のように、これまでもKDDIでは四国の島々で携帯電話がつながるように長く施策を続けてきた。たとえば、大洲市沖に浮かぶ「青島」。いわゆる猫島として知られる観光地でもある。青島は、四国側から電波を飛ばしてエリア化した。これにより地域住民はもちろん、島を訪れる観光客もスムーズに携帯電話を使えるようになったのだ。

実際に使った現地の人からも喜びの声が届いている。 「今までは自宅のなかでも、手前の部屋では通じるのに山側の部屋に行くと全然通じなかった。それがちゃんと通じるようになるのはありがたいね。電波がスムーズに入るようになったら、より多くの人に島に遊びにきてほしい」

長年、四国全域の基地局に携わっている、KDDIエンジニアリングの難波隆之は、「四国の島々にはこれまで百数十の基地局を建設し、エリア化に努めてきました。今回の嘉島のように、直接住民の方の声を聞けるとありがたいですね。仕事へのモチベーションも高まります」と語る。

携帯電話の電波は、つないで終わりではない。つながらない場所をつないだ後には、正しくつなぎ続ける取り組みが生まれる。今日も、海を渡り山を駆け巡り鉄塔によじ登り街を見渡し、携帯電話の電波をつなぎ続けるために、“現場”は動き続けている。

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