人々の「あたりまえの日常」を一瞬にして奪い去り、甚大な被害をもたらした関東大震災から100年。人々の暮らしは大きく変わっています。
中でも通信ネットワークが生活に溶け込み、スマートフォンが連絡を取り合うための日常的な手段となったのは大きな変化です。スマートフォンは今や、情報を得るためのメディア、買い物に使うサイフ、家の鍵、通勤定期などといった役割も担うようになり、通信をつなぎ続ける通信キャリアの責任は増しています。
特に災害時の通信には、大切な人の安否確認や災害情報の入手、SOSの発信など、守るべき大きな役割があります。
最新の技術を取り入れながら、災害時にいち早く通信ネットワークを復旧させ、パートナーと協力して人命救助や災害復興に貢献する。そんな強い思いでKDDIが2023年3月2日に行ったのが「2023 KDDI災害対策訓練」です。

陸上自衛隊、海上保安庁、横浜市消防局と連携して行った訓練には総勢約150人が参加。これまでの陸・海・空からのアプローチに加え、新たに宇宙の視点も取り入れて、通信の確保、被災者の救助支援などを中心に訓練を実施しました。
今回の訓練では、より迅速な通信復旧に向けた最新技術も取り入れました。
通信が途切れてしまった場所に設置し、簡易的に通信を復旧させる「移動基地局」に衛星ブロードバンドサービスの「Starlink」を活用したのもその一つです。小型で運びやすく、設置が簡単。これまでに比べて高速で低遅延な通信が可能なため、被災地でも快適にインターネットを利用できるようになります。

車載型基地局も、2006年には8トントラック規模だったものが、今や軽自動車サイズに小型化されました。これまで倒木やがけ崩れで進入が難しかった被災地にも適応するため、より早い通信の復旧が見込めるようになります。

人命救助に向けた取り組みも進化しています。訓練で実施したのは、倒壊家屋に取り残された人を救うため、スマートフォンから常に出ている電波をヘリコプターやドローンでキャッチし、在圏位置を推定するというものです。見つけたあとの救助は横浜市消防局と連携。一人でも多くの方の命を救うため、auに限らず国内の各通信事業者に対応できます。
KDDIは日々、さまざまなパートナーと災害対策の訓練を行っており、その集大成といえるのが、今回の「災害対策訓練」です。
すべての経験を災害対策への学びに―KDDIの思い
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「通信の影響・責任が増している時代に、いかに迅速に通信を復旧できるか。そのためにできる災害対策を日々検討し、アップデートして訓練を行っています」
こう話すのは、KDDIで災害対策時の復旧統制をとるネットワーク強靭化推進室長(当時)の水田秀之。
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「スマートフォンが一人一台の時代になった今、緊急通報もスマートフォンを使うのが当たり前になっています。通信が途切れてしまうと人命救助にも影響を及ぼすので、責任の大きさを感じています」
パートナーとの連携なしに「迅速な通信の復旧」はない
一刻も早い通信の復旧に欠かせないのが、外部パートナーとの協力です。災害による崖崩れや倒木などによって道路が寸断されてしまった場合には、自衛隊や自治体、関連省庁との連携が欠かせません。
「被災地では多くの場合、私たちだけでは到底たどりつけないほど道が寸断されています。自衛隊や海上保安庁、自治体の方々といったパートナーの協力なしに、こうした場所に復旧機材である移動基地局を運ぶことはできません。最新の被害状況を迅速に把握し、陸や海、空からアプローチができるのも、パートナーの皆さまのお力があってこそ。協力体制がしっかりできていることで迅速な通信復旧が可能になるのです」
いざという時にスムーズな連携ができるようにするためにも、実際の災害を想定した災害対策訓練はとても重要な位置づけです。災害対策も日々進化するため、社内はもとより、外部パートナーとのこまめな情報共有と訓練のアップデートが欠かせません。
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「災害対策訓練というと形骸化が懸念されることもありますが、さまざまな災害想定、進化する対策にいつでもスムーズに対応できるよう、関係者と連携し、議論しながら準備し訓練するため、そのようなことはありません」
一刻も早い通信復旧のために、最新の技術を活用
これからの災害対策はどのように進化していくのか。大きく2つの方向性を水田は示します。
1つは新たな技術を使って、これまでの手法をより良いものにしていくことです。例えば、通信を早く復旧させるためには、通信が途絶えた場所に移動基地局を運ぶ必要がありますが、この機材が小型化すればするほど、これまで運べなかった場所にも運びやすくなります。小型・軽量化に役立つ技術を使うことで、手法をより洗練させていくことを目指します。
もう1つは災害対策そのもののIT化です。現状の災害対策は「ひと」と「もの」を大量に投入することで迅速な対応を図っていますが、ITを活用したシステム化を進めることで、より高度で効率の良い災害対策の実現を目指します。
そして最終的には『災害が起きても止まらない通信』を目指すと水田は意気込みます。
「どのような状態であっても通信がつながる、というのが理想だと思っています。昨今では低軌道衛星を使った『Starlink』のようなインターネット通信サービスも登場しており、これまでの陸・海・空からの復旧アプローチに『宇宙』を加えることで、これからの災害対策の可能性が大きく広がっていくはずです」
進化する通信復旧と人命救助―KDDIの技術
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「東日本大震災が起こった時、あまりの被害の大きさから、通信が途絶えた現場にたどり着けないことがありました。そこから自衛隊や海上保安庁、自治体などの外部パートナーとの連携や、通信を簡易的に復旧させるための基地局を運びやすくするための小型・軽量化の取り組みが加速しました」こう話すのは、KDDIネットワーク強靭化推進室 エキスパートの川瀬俊哉。
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KDDIが2023年3月2日に行った災害対策訓練では、新たな技術的成果を公開しました。その1つが、これまでより大幅に小さく、軽くなった移動基地局です。
移動基地局は、災害によって機能しなくなった基地局の代わりに設置することで、止まってしまったモバイル通信を簡易的に使えるようにするものです。新たに低軌道衛星によるインターネット通信サービス「Starlink」を使うことで、機材の大幅な小型軽量化を実現。これまでの衛星通信機材と比べて、大きさ約5分の2、重さ約7分の1までサイズダウンしました。
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「Starlinkを使った可搬型基地局は、軽くて運びやすいだけではなく、これまでのものと比べて簡単に組み立てられます。これにより、現地で設置・運用する際の手順がシンプルになるので、少ない人員でより迅速な通信エリアの復旧が見込めます。被災地の方々にとっても、高速な通信が可能になるので、これまでよりも快適にお使いいただけるようになります」(川瀬)
また、車載型基地局の大幅な小型化も実現し、新たに軽自動車タイプが登場。これはKDDIが既に3G携帯電話サービスを終了しており、少ない機材で運用できることから実現しました。
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「これまで被災地で車載型基地局を運用してきましたが、さらなる小型化が必要とされていました。トラックや大型車両では行けなかった場所にも、届けられるようになるはずです」(川瀬)
人命救助に通信の技術を活かす
災害時に通信キャリアができることは、今や通信の復旧だけにとどまりません。KDDIは、携帯電話サービスで培った技術を人命救助に役立てようとしています。
その一例が、スマートフォンが常に発している電波を基地局が捕捉するという、モバイルネットワークを使う上で欠かせない技術を使った人命救助の取り組みです。KDDIはこの技術を応用して、助けを求める人が取り残されている場所を見つける仕組みを開発しています。
今回の訓練では、この仕組みをベースに新たに試作をした「携帯電話電波捕捉システム」を使った要救助者捜索のデモンストレーションを横浜市消防局と共同で実施。災害により通信が途絶してしまった地域において、動けない状態で家屋に取り残された人をKDDIが捜索し、その情報をもとに横浜市消防局が救出するという訓練を行いました。
被災地の上空からヘリコプターやドローンを使ってスマートフォンの電波をキャッチすることで、倒壊した家屋の中に取り残されたスマートフォンの位置を推定します。
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今回、このシステムには2つの機能が加わりました。1つはauに限らず国内のどの通信事業者の電波もキャッチできるようにする機能です。
このシステムを開発したネットワーク強靭化推進室 エキスパートの鈴木崇之は、「これは総務省などの関係省庁や他通信事業者の理解と協力がないとできないこと。普段はビジネスで競合していても、人命救助の現場では一致団結して取り組もうという気持ちの表れです」と話します。

もう1つは、捜索範囲を絞り込むための機能。まずはヘリコプターを使って半径数キロレベルの広い範囲にスマートフォンの電波を捉えるための電波を照射します。これであたりをつけたあとに、同システムともう少し狭い照射範囲のアンテナを積んだドローンで捜索範囲を絞っていきます。さらに、地上での捜索のため、同システムとアンテナを携帯できる、ハンドヘルドタイプも用意しました。

「人命救助の現場においては、迅速に、かつ、できるだけ精度の高い推定位置情報が求められます。電波発射の高度や強度、照射幅などを細かく調整することで様々な場面において活用ができるように目指しています」(鈴木)
DXとデータ活用が今後の災害対策のポイントに
日々進化する技術は、災害対策にどのような変化をもたらすのでしょうか。鈴木は「DX*1とデータ活用がポイントになる」といいます。
*1 デジタルトランスフォーメーション:技術を使ってビジネスのあり方を根本から変える取り組み
例えば今回の防災訓練では、災害時に影響を受けている基地局の数やその周辺情報をリアルタイムで集約し、一元的に表示するマップを使い、現場の状況把握や迅速な復旧判断に役立てています。ここにドローンを使った災害地域の3D化データや、基地局と端末の通信から把握できる人流データ、自治体のオープンデータを加えることで、さらに高度な災害対策につなげられます。

「これからは技術の進化が、災害対策のあり方を大きく変えていきます。私たちは新たな技術を常にキャッチアップし、みんなでそれを使いこなしながら防災対策をより良いものにしていきたいと思っています」(鈴木)
被災者に寄り添うための協力体制を―横浜市消防局の思い
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約370万人の人口を抱える日本最大の政令指定都市、横浜。開港の地として知られるこの街は、当時の面影を残す歴史的建造物も多く、観光都市としても人気を博しています。そんな横浜市の安全を守っているのが横浜市消防局です。
「横浜市は住む人も訪れる人も多く、災害対策については多様なニーズがある場所です。さらに昨今では、都市構造の高度化、深層化が進んでおり、これまでにはなかった未知の危険要因が出てくることも予想されます。こうした災害の多様化、複雑化に対して迅速に対応していくことが求められています」
横浜市の災害対策についてこう話すのは、横浜市消防局 警防部 警防課 訓練救助係長を務める長﨑俊介さん。横浜の防災対策の移り変わりを30年に渡って見守ってきました。
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この30年の大きな変化は、携帯電話・スマートフォンの普及だと長﨑さんは話します。家族に一台だった電話が、一人一台になったことから、119番通報にも大きな変化がありました。
「これだけが原因とは言い切れないのですが、救急要請は年々、増え続けています。コロナ禍の時には、1日の通報が1000件を超えるなど、今やスマートフォンがまさにライフラインになっていると考えます」
こうした背景から、通信キャリアに対する横浜市消防局の期待は高くなっています。
「大規模災害が発生した時には、被災した方々が発信する119番通報が救助活動のための重要な情報源の一つとなります。携帯電話網の復旧は、まさに災害救助の命綱。常に通信キャリアの方々とは災害対策の情報を共有しながら、一刻も早い人命救助に向けた協力体制を築いていきたいと思っています」
通信を使った人命救助に期待
横浜市消防局は、KDDIが3月に実施した災害対策訓練において、航空機型基地局のノウハウを使った人命救助の訓練に参加。KDDIがドローンを使った捜索で発見した倒壊家屋内の要救助者を、横浜市消防局が救助するという訓練を行いました。
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この技術には横浜市消防局としても期待しているといいます。
「被災地で倒壊した建物一軒一軒を回って、助けが必要な人がいるかどうかを確認するというやり方には限界があります。今回の訓練のような形で、要救助者の情報をKDDIから提供していただき、それをもとに私たち消防局が救助に向かう、という連携ができるのは、とても有効な手段の一つと考えています。他の通信事業者様も含めてとはなりますが、より広範囲で詳細な情報が取れるような技術の発展に期待しています」
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被災した方々の気持ちに寄り添った活動を
東日本大震災が起こった時、航空隊員として被災地での活動に従事した長﨑さんには、忘れられない思い出があるといいます。
これまでに経験したことのない、どこから手をつけたらいいのかわからないくらい壊滅的な被害を受けた災害現場を前に途方に暮れ、全力で活動にあたりながらも「もっと何かできることはなかっただろうか」と自問自答する日々だったとのこと。
そんなある日、長﨑さんが目にしたのは、車のワイパーに挟まれた「ありがとう」という被災地の方からのメッセージでした。
「被災地で不安な思いをしている方々に寄り添い、一日も早く被害に遭われた皆さまが元の暮らしに戻れるようにするためには、自治体と通信キャリアとの協力が欠かせません。お互いの強みを生かしながら災害対応、復旧作業を進めていくためにも、今回のような訓練はとても大切だと思っています」