「地方に都市の利便性を、都市に地方の豊かさを」と政府が掲げている「デジタル田園都市国家構想」。その差を埋める手段の一つと捉えられているのが、携帯電話網による通信の整備です。すでにauは、4G LTEおよび5Gにおいて人口カバー率99.9%を達成しています。しかしながら、日本の国土面積100%をカバーするにはまだ至っていません。
山間部や離島の日々の暮らしにおいて通信手段が欠かせないのはもちろん、道路やダムを建設している山奥の工事現場や、漁業が行われている海上などでは、業務管理に通信が欠かすことができません。さらに、事故等の緊急時の連絡に通信は最後の"つながり"になります。
また、登山を楽しむ人にとっては、山小屋でのキャッシュレス決済や天気予報の確認がより安心・安全な登山につながります。そして、地方か都市部かに関わらず、地震・台風などの災害発生時には、臨時で回線を引き、安心・安全な生活を送れるようにすることが、KDDIの役割だと考えています。
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日本全国どこにいても、どんなときでもつながる――。それを実現する鍵は、「宇宙」にあります。日本の衛星通信を約60年にわたって支えてきたKDDIは、米国Space Exploration Technologies(以下、スペースX)社の衛星ブロードバンド「Starlink」を利用して、豊かな自然をもつ日本全国をつなぎ、暮らしに安全・安心をお届けします。
低軌道衛星を利用して、通信できないエリアをなくす
KDDIは、米国Space Exploration Technologies(以下、スペースX)社の衛星ブロードバンド「Starlink」をバックホール回線に利用するau基地局を、2022年12月に運用開始しました。バックホール回線とは、街などのau基地局と、基幹通信網との接続点である最寄りの拠点施設とをつなぐ中継回線のことです。
Starlinkは、高度約550キロの低軌道上にある3400機※もの低軌道衛星を介してブロードバンド通信をするサービスです。低軌道衛星1機あたりがカバーできるエリアは静止衛星のそれと比較すると狭いものの、上空を次々に通過する衛星に順次切り替えて通信することで、常に衛星通信ができます。そして大きなメリットは、高度約3万6000キロとなる従来の静止軌道衛星に比べて地表からの距離が1/65と大きく近づくため、データ通信において大幅な低遅延と高速伝送を実現できることです。
※2022年10月時点
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しかし、低軌道衛星を数千機も打ち上げることは容易ではありません。多くの企業が苦慮する中でスペースXは、「ロケットの製造から打ち上げ、その中に載せる衛星まで全部自社で作っている」「1回の打ち上げロケットで50機ほどの衛星を打ち上げられる」など、高い技術力を有しています。こうしたことから、KDDIはスペースXとの提携をしました。
「au基地局のバックホール回線にStarlinkを利用することで、これまで光ファイバーの敷設が難しかった山間部、離島などのエリアにおいてもau基地局を設置できます。都市部との通信格差をなくし、安心・安全な暮らしのための通信インフラを提供できるようになるということです。KDDIでは、日本国内においてスペースXとStarlinkの技術検討に取り組み、サービス品質と性能の実証を行ってきました」と話すのは、KDDI株式会社 事業創造本部 LX基盤推進部 部長 泉川晴紀です。
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災害時にも安心して生活できるために
さらにKDDIとスペースXは、2022年10月に、日本国内の法人企業や自治体への衛星ブロードバンドインターネット接続環境の提供に関する契約を交わしました。これにより、KDDIは国内初の「認定Starlinkインテグレーター」として、企業や自治体のお客さまの課題に対し、Starlinkのブロードバンド通信網を活用したソリューションを提供することで、課題を解決することが可能となります。
「例えば、山間部におけるダムなどの建設現場では、道路をつくるところから開発作業が始まります。当然のことながら、未開発の地では通信環境が整っていません。そうした仕事に携わる企業にStarlinkによる通信環境を提供することで、その現場に都市部での工事と変わらない業務環境を提供することができます。デジタル化やリモート化が進む業務面においても、そこで働く方々の従業員満足度の面でも、また安心・安全の面でも大きな意味があると考えています」
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また、企業や自治体にとってStarlinkは、高速低遅延な「衛星」を利用するという新しい視点での事業継続・公共サービス維持対策として期待できます。
「日本は地震や台風などの自然災害の多い国です。災害が発生した際に、たとえ通常の回線が利用できなくなっても、衛星を介したStarlinkがあれば通信回線を確保できます。私たちは、これまで通信が困難だった地域での通信や、有事の際における通信など、日本全国どこにいても、どんなときでもつながる通信環境を提供したいと考えています」
KDDIは、Starlinkを利用して、「宇宙から『ずっと、もっと、つなぐぞ。au』」を実現してまいります。
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衛星通信はKDDIから始まった
日本の衛星通信は、当時の国際電信電話(KDD)が1963年に開所した茨城宇宙通信実験所からスタートしました。そして、1969年に誕生したのがKDDI山口衛星通信所(現・山口衛星通信センター)です。現在、KDDIの衛星通信は山口に集約され、国際通信用の静止衛星と交信するためのパラボラアンテナが約20基(2022年12月時点)配置されています。
では、なぜ山口に衛星通信所を設置したのでしょうか。静止衛星は、理論上3機で地球全体をカバーできますが、山口からは、インド洋上の衛星を使ってヨーロッパと、太平洋上の衛星を使ってアメリカ大陸と通信ができる好立地にあります。また、地震や台風などの自然災害が少ないことも理由の一つです。
これまでの60年にも及ぶ日本の衛星通信の歴史の中でKDDIは、「地上局アンテナの開発」「移動衛星通信システムの開発」「衛星最適配置プログラムの開発」「国際イベントでの映像伝送」といったことを、国内のさまざまなメーカーと一緒になって行い、衛星通信の発展に先駆的な役割を果たしてきました。
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静止衛星の特徴とユースケース
衛星通信の主流は、静止衛星です。例えば、気象衛星ひまわりの場合、3万6000キロの上空で衛星軌道上を回っていて、地球から見ると止まったように見えます。
前述したように静止衛星は、理論上は3機で地球全体をカバーできます。そのため、一度に多くのエリアをカバーでき、同報性や耐災害性に優れています。一方、デメリットとして挙げられるのが遅延です。地上と衛星間の距離が長いため、光速でも約250ミリ秒かかってしまいます。
衛星通信のユースケースとしては、NHKの国際放送や南極昭和基地との通信が挙げられます。KDDIでは、南極越冬隊員として昭和基地に毎年1人を派遣し、設備の調整などを行い、昭和基地での生活基盤を維持しています。
また、災害時にいち早く通信できる衛星通信端末のほか、au基地局のバックホール区間に衛星回線を利用しているケースもあります。さらに災害時には、船を基地局にすることで海路で被災地に接近し、地上側の通信の復旧も図っています。
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低軌道衛星時代の幕開け
静止衛星は大きな役割を果たしていますが、今日、新たな潮流が生まれています。それは、地上と衛星間の距離が近い低軌道衛星が身近な存在になっていることです。これには、衛星の製造技術や打ち上げ技術が民主化するとともに、衛星自体が小型化し、製造コストが安くなっていることが背景にあります。
Starlinkの低軌道衛星は、地球との距離が約550キロ(静止衛星のおよそ65分の1)なので、地球全体をカバーするのに大量の衛星が必要になりますが、低遅延で大容量の通信が可能になります。また、衛星の数が多ければ多いほど、地上を結ぶ地上局が必要になります。そこで、衛星間光通信を活用するといったことも考えられています。
一方で、静止衛星の通信を邪魔しないルール制定といった課題もあります。KDDIでは国際電気通信連合(ITU)の世界無線通信会議(WRC)で、技術統括本部 グローバル技術・運用本部 副本部長 河合宣行が議長を務め、静止衛星と低軌道衛星が共存できるルール制定をリードしています。
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スペースX「Starlink」の可能性
2022年6月に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催されたネットワーク技術の展示会「Interop Tokyo 22」の基調講演に、スペースX(SpaceX)のStarlink 営業担当副社長(Vice President of Starlink Commercial Sales)のジョナサン・ホフェラー(Jonathan Hofeller)さんがオンラインで登壇し、「Starlink–Connecting the World」と題しStarlinkの今後を語りました。
Starlinkは、低軌道衛星により地球全体に高速インターネット回線を提供するシステム。ホフェラーさんよると、この2カ月の間にかなりのマイルストーンに到達したといいます。
Starlinkのようなソリューションは、他社でも何度か試みられているもののほとんど失敗に終わっていると言い、「この製品がチャレンジングなものであることを非常によく理解している」(ホフェラーさん)と事業発展の困難さを説明しました。
ホフェラーさんは、15年以上にわたって毎年スペースとコネクティビティの両方で驚くべき変化が遂げられていると感じているといい、今年も前年よりもさらに画期的になっていると語ります。
ホフェラーさんは、高速インターネットを地球上の隅々まで普及させることの重要性について、近年のパンデミックによってそれが以前よりも明らかになったと説明。「コネクティビティの重要性は、単に音声通話をするための接続だけでなく、教育、保健、医療、福祉など、さまざまな分野で活用できる接続性を備えていること」とし、人類に多大なインパクトを与えられる価値のあることだとしています。
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これまでのStarlinkについて
「この数カ月は、非常に忙しい一年でした。そして、2000機以上の衛星を打ち上げ、十分に運用可能な衛星群を持つようになりました。さらに、私たちは強力な顧客基盤を構築しました。一般/商業含めたあらゆるお客さまと、学校や診療所、石油/ガス、エネルギーなど、さまざまな業種のお客さまにもご利用いただいています。コネクティビティでは、まだまだやるべきことがたくさんあります。私たちはまだ立ち上がったばかりですが、より多くの通信容量と端末を持っており、どのようにすれば世界中に影響を与えられるかを考えています」
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Starlinkのユースケース
Starlinkのユースケースについてホフェラーさんは以下のように語りました。
「Starlinkは固定通信として、さまざまな用途があります。学校への接続では、今年10万人以上の生徒にコネクティビティを提供します。さらに、世界中の組織と協力し、提供の機会を探っています。このほか、農業やエネルギー分野、輸送など遠隔地との連携をサポートし、森林伐採や森林管理、災害救助などにも役立てられます。災害への備えというのは、あまり話題になりませんが、私たちはこのような技術や能力について多くの人に知ってもらいたいと考えています」
「世界には、あまり注目されない災害が数多くあります。昨年はヨーロッパで洪水が発生し、数カ月前にはトンガで津波が発生しました。ほかにもハリケーンや地震などあらゆる災害が瞬時にコネクティビティを持って行ってしまいます。私たちの製品では、数時間数日のうちに通信機器を整備し、コネクティビティを失った方々に提供できます。私たちは、世界中の政府と協力して災害に対応するのではなく、災害を意識して積極的に取り組みStarlinkで対応できる能力を持つようにしています」
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「不可能だ」という声を信じない
「先ほども申し上げましたが、Starlinkの構築は非常に難しいものです。端末を作り、規制当局の認可を受け、顧客網を構築する必要がありますが、私たちはこのプロジェクトは達成されるべきものだと考えています」
「スペースXは過去10年半の間に、非常にアクティブにプロジェクトを進めてきました。 私たちが1号機を計画したとき、民間企業には打ち上げ用ロケットを作ることができないと言われました。しかし、私たちはそれを設計し製造しました。また、ロケットを製造し発射させることは不可能だと考えられていましたが、私たちは成功させることができました。このような懐疑論を考えていれば、何千何万の衛星は作れませんでした。しかし、私たちのプロジェクトはまだ道半ばで、これからも設計し実行していきます」
「私たちの最終的な目標は、まだ人がいない惑星を自分の家にすることです。不可能だと言われていますが、懐疑論者に耳を貸さないこと、できないと言っている人に耳を貸さないことが重要だと思い、自分自身にも言い聞かせています」
「私たちの子どもがよりよいエキサイティングな未来を築くことができるように取り組んでいきます。そして、私は宇宙の一部になれることを改めて光栄に思い、また日本の皆さんとお話しできることを期待しております」