2023.12.20
「NFCタグ」と「高精度位置測位サービス」を交通に
区間乗車料金の即時決済を実現する仕組み
スマホタッチ支払いのキーとなる技術の一つが、NFC(Near field communication:近距離無線通信)です。
10年以上にわたりNFCの実用化に取り組んできたアクアビットスパイラルズ CEOの萩原智啓さんは、次のように話します。
「私たちが開発したスマートプレートは、アプリやクラウド管理型のNFCタグを内蔵した『モノのハイパーリンク』とも言うべきものです。NFC対応のスマホをかざすだけで、特別なアプリをインストールすることなく、さまざまなデジタルコンテンツを配信することができます」
現在普及している多くのICカードシステムは設置場所や施設側にICカードを読み取るための端末が必要になりますが、スマートプレートではスマホ側が読み取るため新たな設備投資やメンテナンス費用を圧倒的に抑えることができます。加えてスマートプレートは、店舗のPOPや商品のラベル、屋外などどこにでも貼付することができ、電源やバッテリーが不要なことから、設置場所を問わずメンテナンスフリーで運用することが可能です。「これまで、ホテルの客室や商業施設からの情報発信、飲食・宿泊クーポン、鉄道駅や商店街などでのスタンプラリーなど多様な領域に提供してきました」と萩原さんは話します。
そうした中でKDDIに持ち掛けたのが、「どこからどこまで乗ったかによって変動する路線バスの区間乗車料金を、スマホタッチで支払えるようにできないだろうか」という相談でした。
「バスの乗車口と降車口に設置したスマートプレートをスマホでタッチしてもらえば、そのお客さまの乗降情報をクラウドに記録できます。あとはKDDIの『位置を正確に計測できる技術』さえあれば乗降したバス停を特定し、区間乗車料金の即時決済を実現できると考えました」(萩原さん)
この「位置を正確に計測する技術」は、KDDIの「高精度位置測位サービス」により実現しています。KDDI地域共創推進部の大森智裕は、「基準局の情報を利用して作成された誤差修正用の補正信号を配信し、GNSS(人工衛星を利用した全世界測位システム)で取得したデータを補正することで、高精度な位置測位が可能になります」と話します。
徳島県や岡山県を舞台とした実証実験がスタート
アクアビットスパイラルズとKDDIは、さっそくスマホタッチ支払いのシステム構築に着手。これを機に始まったのが、徳島県を舞台とした実証実験です。
2021年10月からのフェーズ1では、徳島県鳴門公園周辺エリアにおける観光型MaaSとして、従来型(事前購入型)の「JR・徳島バス フリーパス」「なると観光チケット」に加えて、新規に開発した区間料金即時決済型の「バス スマホタッチ支払い」を提供。さらに2022年11月から始まったフェーズ2では徳島バス・JR四国の共同経営区間において、バスから鉄道、鉄道からバスへと乗り継いだ際の「通し割引運賃」にも対応しました。
「複数の事業者をまたぐ複雑な乗車料金計算であっても、クラウド上のシステムで柔軟に対応することができます。交通系ICカードシステムとそん色ない利便性を、スマホタッチ支払いの仕組みでも提供できることを実証できました」(大森)
その後2022年10月からのフェーズ3では愛媛県南予地方で「YODO MaaS」の実証実験を開始、これらの成果を受けて2023年9月からのフェーズ4では宇和島自動車に導入され、2023年10月からは岡山県の両備ホールディングスでフェーズ5の実証実験が開始されました。