2023.6.15
現代の病「スマホ依存」実態解明への取り組み
スマートフォン依存は「否認の病」と言われています。本人は自分がスマホに依存していると認めないため、スマホ利用の実態も把握できていないことが多いのです。
そこで、KDDI総合研究所はスマホに搭載されている20以上のセンサーを利用してスマホの利用状況を詳細にデータ取得できるアプリを開発しました。スマホの利用時間総数や時間帯推移といった一般的な項目に加え、ロック解除の頻度等の詳細を記録し解析ができます。
スマホ依存の実態解明に向けて分析調査を実施
KDDI総合研究所は東京医科歯科大学病院 精神科 ネット依存専門外来の患者さんで分析調査にご同意いただいた方を対象にスマホの利用データの収集を行いました。現在は早稲田大学の内田研究室とも連携し利用データの分析を行っています。
スマホ依存の中でも動画をずっと見ているようなタイプの人は1日にロック解除する回数は少なく、ロック解除あたりの利用時間は長い傾向があります。またSNSの利用が多いタイプの人は1日にロック解除する回数が多いけれどロック解除あたりの利用時間は短い傾向があります。
1日当たりのロック解除の回数をX軸、ロック解除あたりのスマホの利用時間をY軸のグラフで表現し、ある患者さんの結果をプロットした結果がこちらです。
グラフの右下にプロットがある場合、その日はロック解除を頻繁にしていた(SNS等を頻繁にチェックしていた)と解釈ができ、グラフの左上にプロットがある場合、ロック解除後長時間アプリ等を利用していた(動画等をずっとみていた)可能性があると解釈できます。
スマホ依存の方でも、SNSに依存している人や動画の閲覧に依存している人によって、プロットの傾向が異なります。またグラフのように長期間、数か月にわたってプロットの推移をみることでスマホ依存の傾向の変化をみることができるのです。
また、患者さんのスマホ利用パターンの変化を見ることもできます。
利用パターンが日々の間で似ている場合は赤色で表示され、逆に似ていない場合は青色で表示されるため、この色の変化を見ることで、利用パターンに変化があった日を推測することが可能です。
このような収集したデータの分析は、早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科 内田真人先生にもご協力をいただき、学術的な目線で指導を頂いております。
「スマホ依存はまだ解明されていない分野なので、分析しながら理解を深め、治療や予防するためには何が必要かと考えながら一緒に進めています。通信事業者として負の面にも目を背けることなく、研究を進めていくことはICT企業全体のありようを変えていくことだと思います」(内田先生)
DTxの実現を目指して
「スマホ依存」の実態把握に留まらず、スマホ依存を改善する「Digital Therapeutics:デジタルセラピューティクス)*1」の研究開発も進めています。家族療法に基づくアプリで、親子の関係を改善することでスマホ依存を軽減する方法です。親と子(患者)がそれぞれのアプリを使用し、親が子を褒めるポイントを指南したり、スタンプで褒めたりなど交流を促す仕組みになっています。こちらも東京医科歯科大学の患者さんと家族に使っていただき、その効果を検証中です。
*1 DTx(Digital Therapeutics:デジタルセラピューティクス):疾病の診断や治療、予防等の医療行為を支援するデジタル技術で、患者が医師の指導の下、治療目的で使用するものを指します。
加えて、XRやメタバースなどのITトレンドを取り入れた研究開発も進めています。医療現場では倫理審査の手続きなどを丁寧に進めていく必要がありますが、将来的にはDTxによって人の行動が変わるというエビデンスを示していくことでプログラム医療機器の実現を目指して取り組んでいます。