2023.1.19

サステナブルなモノづくりを実現する「トータルファッションシステム」

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人手をかけずに、生地の無駄をなくしたい

島精機は、「限りなき前進」を理念として掲げ、ホールガーメント横編機をはじめ、ニット商品のデザインシステム/ソフトウェア、CAD/CAMシステム、プリンティングマシン、PLMソリューションなどを提供しています。

ホールガーメント横編機ホールガーメント横編機

「コンピュータ制御のホールガーメント横編機は、ニット商品のマスカスタマイゼーションや小ロット・オンデマンド生産に対応できる編機です。完成までには相当の苦労がありましたが、“限りなき前進”という理念どおり、粘りに粘って世界で初めて製品化に成功しました」と、島精機製作所 トータルデザインセンター広報担当の烏野政樹さんは明かします。

株式会社島精機製作所 トータルデザインセンター 広報担当 烏野政樹さん株式会社島精機製作所 トータルデザインセンター 広報担当 烏野政樹さん

そうした粘りの背景には、ニット商品を生産する際の人手を減らし、かつ、原材料の無駄をなくしたいという思いがありました。

「ホールガーメント横編機は、縫製に人手をかけず、材料の無駄な消費をゼロにできるというメリットがあります。カットソーを生産する場合、材料の30%は無駄になりますが、ホールガーメントの場合、生産に伴う材料の無駄はゼロです。このように無駄のないサステナブルなモノづくりを実現することは、当社の基本的なコンセプトであり、強い思いです」(烏野さん)

その思いは、デザインシステムの「SDS-ONE APEXシリーズ」やデザインソフトウェアの「APEXFiz」にも反映されています。これらの製品は、実物の糸をスキャンし、その糸を使ったニット商品を実物とほぼ変わりないクオリティで再現(シミュレート)することができます。これにより、実物サンプルの試作を不要、ないしは最小限に抑えて商品開発のリードタイムを短縮するとともに、実物サンプルの試作によって発生する材料の無駄な消費も最小化することが可能です。

左:「APEXFiz」で再現したニットをプリントアウトした紙サンプル/右:本物の糸を使って編んだニット生地サンプル左:「APEXFiz」で再現したニットをプリントアウトした紙サンプル/右:本物の糸を使って編んだニット生地サンプル

トータルファッションシステムで、在庫、売れ残り、機会損失をゼロに

アパレル業界ではこれまで、多大な工数とコストをかけて数多くの実物サンプルを試作することが当たり前のように行われてきました。「なかには試作した実物サンプルの数%しか商品化されないといったケースもあります」と、島精機製作所 トータルデザインセンター デジタルソリューションチーム次長の嶋本安世さんは指摘します。

株式会社島精機製作所 トータルデザインセンター デジタルソリューションチーム 次長 嶋本安世さん株式会社島精機製作所 トータルデザインセンター デジタルソリューションチーム 次長 嶋本安世さん

アパレル業界のモノづくりでは商品開発に相当の時間を要し、例えば、1年後に発売する商品の企画を今から始めるといったこともあります。嶋本さんは、その問題の本質について次のように説明します。

「衣服のトレンドや一般消費者の嗜好が目まぐるしく変化する今の時代、1年後に売れる商品を企画するのは困難です。結果として、商品が大量に売れ残り、不良在庫として抱え込んだり、破棄処分したりするリスクが膨らみます。それを回避するには、いかに商品開発のリードタイムを圧縮するかが課題となります。当社のAPEXFizのようなデザインシステム/デザインソフトでは、サンプル制作を実物サンプルからバーチャルサンプルへと切り替えることで、そのリードタイムの圧縮に成功したのです」(嶋本さん)

島精機では現在、APEXFizやSDS-ONE APEXを単体として提供するだけではなく、これらのデザインシステム/ソフトウェアとホールガーメント横編機、そしてKDDIと共同開発した「XRマネキン for APEXFiz」などから構成される「トータルファッションシステム(TOTAL FASION SYSTEM)」をアパレル業界向けに提案・提供しています。

このシステムで目指すのは、糸メーカー、生産者、アパレル企業が形成する商品企画から生産、さらに、KDDIとのパートナーシップによって実現したXRマネキン for APEXFizを活用したXRコンテンツを販売促進に役立てるなど、サプライチェーン全体をデジタルでつなぐことで、あらゆる無駄を削減し、「在庫ゼロ」「売れ残りゼロ」「機会損失ゼロ」のサステナブルな仕組みを創出することです。その根底には、アパレル業界による地球環境への負荷を大きく削減するという同社の思いが流れています。

「少し前までは、実物サンプルからバーチャルサンプルへの切り替えに抵抗感を示すアパレル企業が大勢を占めていました。しかし、近年SDGsなど地球環境保護に対する社会全体の意識が高まることで、アパレル企業の意識も変化し、バーチャルサンプルの活用に前向きになっています。それが、トータルファッションシステムやXRマネキン for APEXFizへの関心の高まりにつながっています」(嶋本さん)

実際、和歌山県にある同社のショールームで展開している、XRマネキン for APEXFizの展示やトータルファッションシステムのデモンストレーションには、アパレル業界の関係者が数多く見学に訪れているそうです。

「当社では、DXやSDGsという言葉が生まれる以前から、地球環境保護のためにアパレル業界のデジタル変革を推し進めようとしてきました。今日、業界の方々の意識も大きく変わりつつあり、XRマネキン for APEXFizの登場もあって道具立ても整備されています。販売領域におけるKDDIさんとの連携をさらに深めることで、当社が思い描いている理想への歩みのペースを上げていきたいと思っています」(烏野さん)