2023.09.05
いち早く海底ケーブルの異常を検知し、迅速な通信復旧を目指して―KDDIの技術
沖縄セルラーの光海底ケーブル「YUI」のプロジェクトに伴走し、企画から敷設、運用までを支援してきたのがKDDIです。KDDIは59年前、前身であるKDDが初の太平洋横断海底ケーブル「TPC-1」を敷設して以来、世界各地で海底ケーブルの建設を手がけてきました。この分野で長年の実績があるKDDIは、その知見をもってYUIの構築を支えてきました。
光海底ケーブルは地上での通信インフラ構築と比べて、敷設のハードルが高いと言われています。その理由について、KDDIの海底ケーブルグループでグループリーダーを務める竹島公貴は次のように説明します。
「地上でも海底でも、高速大容量通信をするために光ファイバーを使うところは同じですが、その先が違います。光ファイバーの中を通る光信号は、吸収や散乱によって次第に減衰していきます。そのままでは遠くまで光信号を運ぶことができないので、途中で光を増幅する必要があります。地上で増幅するための装置に電源を取るのは比較的容易ですが、海底ではそう簡単にはいきません」(竹島)
海底の光ファイバーケーブルで遠くまで光信号を運ぶためには、ケーブルの一定区間ごとに増幅のための中継器を設置して、陸上の給電装置から高い電圧をかけることで海中に設置される中継器に電力を供給し、減衰した光を増幅します。それを繰り返すことで、遠くまで光信号を送ることができるのです。
「中継器やケーブルは、できるだけ自然や災害による影響が少ない場所に敷設する必要があるので、海底の地形を精査しながら慎重にルートを検討しなければなりません。また、切断した時に迅速に復旧するための体制作りも欠かせません。こうした海底ケーブルシステムや陸上施設の設計、運用に向けた仕組みづくりなどを支援してきました」(竹島)
安定した海底ケーブルの運用を目指して
KDDIは今回のプロジェクトで、沖縄セルラーが海底ケーブルを安定的に運用していくための支援も行っています。YUIの監視システムの設計と復旧体制の構築もその一つです。
海底ではケーブルに異変が起こった時、陸上と違ってすぐに人が駆けつけることができません。そのため、可能な限り早くケーブルの異変を検知し、通知するための仕組みと、迅速なケーブル復旧のための体制づくりが重要になります。
監視システム構築の背景についてKDDI 海底ケーブルグループの高岡豊彦は次のように説明します。
「監視システムは多くの場合、既存のネットワークがあり、それを使うことがほとんどなのですが、YUIでは既存のネットワークがないルートもあったことから関係者と連携して離島間を結ぶ監視ネットワークを構築しました。警報を検知した後の復旧プロセスも合わせて設計することで、一貫性のある監視、復旧体制ができたと思っています」(高岡)
また、YUIプロジェクトの支援では、KDDIとして初の取り組みもあったと竹島は振り返ります。
それは「中継器なし」の海底ケーブルの敷設です。長距離の海底ケーブルには、光ファイバーの中で減衰していく光信号を増幅するための中継器が必要ですが、久米島〜宮古島間は全長260キロとそれほど長い距離ではなかったことから、中継器を必要としない設計になっています。
「ケーブルの中に増幅用のファイバーが入っていますが、中継器は使わない形のシステムを採用しました。これはKDDIとしては初の取り組みです」(竹島)
海底ケーブル事業の魅力を伝えたい
今回の光海底ケーブルプロジェクトを振り返って、高岡は次のように話します。
「光海底ケーブルは敷設の完了がスタート地点で、そこからケーブルの寿命と言われる25年間、いかに安定した状態で運用できるかが重要です。今回のプロジェクトでは、監視の仕組みも含めて、高速大容量通信を安定的に提供するための支援ができたと思っています」(高岡)
竹島は、このプロジェクトを通じて、改めて海底ケーブル事業の魅力を再確認したと話します。
「海底ケーブル事業は高速通信を支える重要なミッションを担っており、多くの企業の多くの方々が関わっています。関係各社のみなさんと実現に向けた調整をする中で、自分たちが策定した仕様が形になり、具現化されていくのは、責任を感じると同時にとてもやりがいを感じます。光海底ケーブル事業を知っていただくことで、この仕事に就きたい、と思う人が増えるとうれしいですね」(竹島)
長年培った光海底ケーブルの技術で、離島の方々に快適な高速通信環境を—。KDDIは沖縄セルラーとともに安定した運用に務めます。